自治体での交通データ活用について


環境自治体会議 環境政策研究所 上岡直見 (2007.11)



 

交通CO2 対策とデータ

 環境政策研究所では、全国自治体の分野別温室効果ガスの排出量をホームページ1)で公開している。交通関係では8 車種別( 軽乗用車, 乗用車, バス, 軽貨物車, 小型貨物車, 貨客車, 普通貨物車, 特種車) のCO2 排出量を知ることができる。
この他に環境政策研究所では、国立環境研究所と共同で行った研究2)により、前述の自治体別・車種別について、それぞれ人口あたり保有台数, 運行率( 運行台数/ 保有台数), 運行台数あたりトリップ数, 人口あたりトリップ数, トリップあたり距離, 排出係数,平均乗車人員( 旅客), 平均積載量( 貨物) を知ることができる「推計テーブル」を必要に応じて提供している。
 これらのデータを使って、ある施策量、たとえば自動車交通をどれだけ転換するかという条件を設定することにより、自治体単位でCO2 の削減量を推計することができる。しかしこれだけでは自治体の交通CO2対策の情報として充分でない。
 自動車交通の転換といっても、それは他の公共交通機関や、徒歩・自転車などとの相互関係の上で考える必要があり、自動車側のデータだけを検討しても解決しない。また自動車の利用の中にも、通勤・通学・業務・日常の私用( 買物など) といった目的別に使い方が異なるので、それぞれ転換の可能性も異なる。
 国勢調査にも「通勤手段」等の項目が一部含まれているが、具体的な検討のためには「交通の5W1H」すなわち、「誰( どのような性別・年齢・職業等々) が」「いつ」「どこへ」「何のために」「どの手段で」というデータが必要である。
このレベルから検討しないと、公共交通の改善計画を立案するにしても、交通手段の転換を呼びかけるにしても、実際にどのくらい自動車からの転換を期待できるか予測できない。まず実態の把握が重要である。
 

パーソントリップデータ

 ここで「パーソントリップ(PT) 調査」の活用が有用である。PT 調査は、住民から対象者を無作為に選び、ある1 日について、どこからどこへ、どのような目的で、どんな交通手段をつかって、どのくらいの時間をかけて移動したか、すなわち前述の「交通の5W1H」をアンケートで調査するものである。
 国勢調査のように全数調査ではなく、抽出率は数%であるが、国勢調査に比べて設問も複雑で、単独の自治体で実施されることはまずない。通常は国土交通省や自治体で「○○都市圏交通計画協議会」等の組織を構成して実施される。
 大規模な調査であるために、一つの圏域に対しては10 年おき程度の実施となり、国勢調査の周期とも合っていないが、それでも有用な情報源である。これまでCO2 削減対策に活用されるケースはあまりみられなかったが、これからは活用が期待される。
 細かい地区別データまでホームページ3) からEXCEL データとして取得できるケース( 福井都市圏の例) もあるが、若干の加工が必要となるケースもある。ただし計算の内容は加減乗除だけであり、内容を理解すれば誰でも取り扱える。
 一方で、個別に協議会に対して申請しないとデータが提供されなかったり、提供に消極的な協議会もみられる。実際の調査にあたって、自治体も労力を提供しており、その結果の提供は積極的になされなければならない。基本的には、どの協議会でも福井都市圏にならって、誰でもアクセスできるように公開すべきであり、これを自治体からも要求してゆくべきである。
 これまで実施されたPT 調査のうち、筆者が内容を確認できた分と、これに含まれる会員自治体を表1 に示す。ただし、各々のPT 調査の時点より後に合併が行われた場合、調査対象に含まれなかった地域が存在する新自治体もあるが、それに該当する自治体に関しては、データが存在する区域をカッコ内に示す。


 

PT データの分析例

  福井都市圏PT を例にして分析例を紹介する。図1は、福井市の中心部からやや郊外寄りの住宅を中心とする地域について集計したものである。この区域に対して、どのくらいのトリップ( 移動) が、どの区域を対象として発着し、その手段分担はどのようになっているかを示している。



 この図から多くの状況が読み取れる。たとえば福井都市圏は、いわゆる「クルマ社会」と言われているものの、地域内の移動回数の半分以上は徒歩・自転車によっている。これらは軽視できない比率であり、徒歩・自転車の通行環境の改善のために、より多くの行政資源が配分されてしかるべきである。また移動の対象地域としては、福井市中心部よりも、郊外部との行き来が多い。
 また図2 は、トリップ数と、その他のデータを組み合わせて、この区域の1 日から交通に関するCO2 がどのくらい発生しているかを推計したものである。鉄道やバスの分担率は低く、ほとんどのCO2 は自動車から排出されているが、特に市郊外部との行き来に関するCO2 排出量が最も多く、この部分の対策が重要であることを示す。


 このような方法を活用し、「交通の5W1H」を踏まえて、単に「徒歩・自転車や公共交通を使いましょう」という精神論でなく、定量的な交通CO2 対策を立案することが必要である。字数の制約から計算の詳細は省略するが、関心のある方は環境政策研究所に問合せていただきたい。
 PT データは、主として鉄道や道路等の施設計画のために実施されてきた経緯がある。しかし最近は、障害の有無・部位による交通行動の違いなどが調査項目に加えられている例もあり、交通CO2 削減対策だけでなく、自治体の健康・福祉分野まで関連ある情報として活用できるので、ぜひ検討していただきたい。

注)
1) 平成17 年度環境省委託「市町村別温室効果ガス排出量推計データ(2000 年, 2003 年) および市町村の地球温暖化防止地域推進計画モデル計画」より。
http://www.colgei.org/CO2/index.html
2) 環境省地球環境研究総合推進費 テーマB61 より。
3) http://www.fukui-pt.com/

(以上)