交通部門CO2削減の方策〜京阪神都市圏を例として〜


環境自治体会議 環境政策研究所 上岡直見 (2007.1)

 いよいよ京都議定書の目標期間が来年に迫った。そこで、交通部門における温暖化対策をテーマとして、実効的な対策のために、どのようなデータを把握していけばよいのか、また、そのデータ類は現段階ではどの程度把握可能なのか、を具体的事例に基づいて明らかにする。

 

◆ 交通CO2の伸び

 よく知られるように、交通の旅客部門からのCO2排出量の増加が大きく、強力な削減に取り組む必要がある。図1に示すように、1990年と2004年について交通の手段別(乗用車・鉄道・バス・航空機など)のCO2排出量を比較すると、乗用車からのCO2排出量がおよそ80%を占めるとともに、伸び率としても大きくなっている。 一方で鉄道・バスなど、公共交通分野からのCO2排出量は、全体に占める比率は少なく、伸び率としても大きくない。これらも放置してよいということではないが、旅客輸送分野でのCO2削減対策は、乗用車の問題が中心となる。

 

◆ 市区町村単位でのCO2削減対策

 そこで市区町村の中には、「ノーマイカーデー」を設けたり、「できるだけ鉄道・バスを利用しましょう」といった呼びかけを行っているケースも多い。しかしこれだけでは、効果の予測もできないし、実施しても削減効果の検証も困難である。また、削減計画を立案するには、市区町村単位での排出量」など、基本的な数値が必要がある。
 そこで環境自治体会議環境政策研究所では、国立環境研究所と共同で、市区町村単位の交通データを整備し、公開する活動を行っている。その成果は『環境自治体白書』2005年版・2006年版にまとめるとともに、環境自治体会議ホームページでも公開している。
 しかし数字がわかっても、それだけでは施策の立案に不十分である。交通分野のCO2の排出は、現実の人や物の移動に伴って生じるものであり、誰が(職業、年齢、性別)・いつ(平日か休日か、1日の中での時間帯)・どこからどこへ(起点と終点)・何の目的で(通勤、通学、私用など)・どういう手段で(鉄道、バス、自動車など)等の、「交通の5W1H」を念頭において考える必要がある。
 

◆ 交通の「5W1H」

 市区町村では、「自動車の登録台数」「道路現況」などの物理的データは容易に取得できても、前述のような「交通の5W1H」にかかわるソフト的な交通データはなかなか得られない。国勢調査では通勤・通学に関する簡単な設問があるが、これだけではCO2削減対策には結びつかない。
 「交通の5W1H」を把握するために「パーソントリップ(PT)調査」のデータが有効である。PT調査とは、個人の属性(住所・年齢・世帯構成等)と、移動の目的別(通勤、通学、私用等)・手段別(鉄道・バス・乗用車等)の人の動きを関連づけて調査し、人の動きの現況を把握すると共に、交通に関する計画の基礎資料とする。いわば「交通における国勢調査」のような性格を有するが、全数調査ではなく無作為抽出により行われる。主要な都市圏ごとに、おおむね10年周期で実施される。
 この調査は、各都市圏ごとに関係行政機関で構成される「交通計画協議会」で実施・管理されている。たとえば京阪都市圏では、京阪神都市圏交通計画協議会がこれに該当する。現状では、この貴重な成果が一部の専門家の間でしか利用されていないが、幸いにも京阪神都市圏については、市区町村ごとに「交通の5W1H」を知るデータがホームページで公開されている。
 

◆ 豊中市の交通分野CO2排出構造

 環境自治体会議の会員自治体である大阪府豊中市を例に、京阪神都市圏PT調査のデータと、都市圏における交通手段別のCO2排出原単位を利用して、CO2削減対策の基本となる、排出構造を検討してみる。また京阪神都市圏の他の会員自治体でも同様に算出可能である。
 交通問題を取り扱うには、まずその市区町村の地理的現状を把握する必要があるが、ここでは豊中市のホームページ等を参照していただきたい。
 図2は、豊中市を基準として、同市を起点・終点とするトリップについて、大阪府側の隣接市(箕面市・池田氏・吹田市)、兵庫県側の隣接市(尼崎市・伊丹市・川西市)、大阪市、神戸市、京都市などの相手地域別に、手段別(鉄道・バス・自動車)のトリップ数の分布を示したものである。(市内で完結するトリップを含む)。




 整理の結果、豊中市を基準とした全体のトリップ数の45%が鉄道を利用し、49%が自動車を利用している。自動車の利用については、豊中市内で完結するトリップの69%と、大阪府側の隣接市に対するトリップの62%が自動車を利用しており、近距離の自動車利用が多いことが示されている。大阪市内に対しては、逆に鉄道の利用が多くなり、トリップ数の72%が鉄道を利用している。なおバスの割合は少なく、市内と大阪府側隣接市に利用されているていどである。
 これに対して図3は、同じ相手ゾーン別・手段別(鉄道・バス・自動車)に、CO2排出量の分布を推計したものである。前述のように、トリップ数では自動車の利用が49%であるのに対して、CO2排出量では87%を占めている。
 また、「その他の大阪府」を対象とした移動については、図2でみるトリップ数としては少ない一方で、移動距離が長くなるために、CO2排出量は多くなる。市内・隣接市・大阪市に対する近距離移動や、その他の大阪府内の移動において、自動車による移動を、バスや鉄道に若干シフトするだけでも、大きなCO2削減効果が期待できることがわかる。

 さらにPTデータを利用して「5W1H」に即した削減対策を展開すべきであるが、今回は紙面の関係でここまでに留める。なお会員自治体向けに、交通政策の参考書として『エコモビリティ実現に向けて─実務者のための手引書』(交通エコロジー・モビリティ財団)を同封する。「エコモビリティ」とは造語であるが、単に「環境負荷が少ない」という意味にとどまらず、移動制約者のモビリティ確保とも両立するという意味を含む。その企画にあたっての考え方や、実務の参考知識も含まれている。(以上)