米国自治体の成功例に学ぼう!〜実効性ある温暖化対策の姿〜(4)

増原直樹/環境自治体会議環境政策研究所(2006.7)

 全米50都市の持続可能性を検証し、ランキングを発表している団体“SustainLane”によれば、2006年版のランキングで第1位となったのはポートランド市(その温暖化対策への取り組みについてはニュース41号で紹介)、第2位はサンフランシスコ、第3位はシアトル市となっている(注1)。
 今回はこのランキングで9位に終わったものの、持続可能性も視野に入れた環境政策に積極的に取り組むデンバー市(コロラド州)の事例を取り上げる。
 

<目標は2012年までに1人あたり排出量10%削減>

 デンバー市は、ロッキー山脈の麓に位置するアメリカ中西部コロラド州の州都である(日本の高山市と姉妹都市)。標高が約1マイル(約1609メートル)であることから「マイル・ハイ・シティー」の愛称で呼ばれている。人口は約55万人で、デンバー都市圏(人口約250万人)の中核都市となっている。このデンバー市のジョン・W・ヒッケンルーパー市長は、2006年7月12日、長期間にわたる市全体の取り組み計画となる「グリーンプリント・デンバー」を発表し、持続可能な発展や環境配慮対策の重要性を高めることを表明した。


図1 コロラド州・デンバー市の位置

 「グリーンプリント・デンバー」はデンバー市並びにデンバー郡の経済と環境に関する包括的な行動計画であり、これによって市のプログラムや政策に環境影響への配慮の視点を統合することを目指している。この計画の主な目標の一つに、温室効果ガスの排出削減があげられている。2012年を目標年として、デンバーの住民一人当たりの温室効果ガス排出量を、90年レベルに比べ10%削減することを目指している。これはこれまでのニュースで紹介してきた全米市長の気候保護同意書(環境自治体会議ニュース第41号参照)に沿った目標である。

 

<1970年代から続く環境対策>

 デンバー市の気候保護への取り組みは1970年代からの大気汚染対策、省エネルギー対策を引き継いだものともいわれている。1970年代のデンバー市は、例えば1975年には年間177日が「不健康」あるいは「とても不健康」な大気環境と認定され、「茶色の雲」の都市として著名であった。このため、デンバー市の職員は、周辺自治体と共同して野焼き対策などの大気汚染対策を熱心に推進した。
 また、1980年には、市有の建築物においてエネルギー消費を減らすための構造などを定めている。この決定は当初、財政的な利益をねらって導入されたものであったが、実際には環境面の利益も大きいことがわかり、現在では、市が新設あるいは大規模修繕する建築物については、LEED(注2)の「銀」基準とEPA(米国環境保護庁)のエネルギースター・ガイドラインを満たすことをめざしている。1980年以降の実績として、1400万平方フィートに相当するオフィス空間に対してエネルギー効率化技術を適用するというプログラムがあったが、この結果、年間約3万ドルの節減につながった。
 これらの取り組みを背景として、市の公衆健康部からの発案で、1991年3月に、市議会決議において、デンバー市及びデンバー郡が気候保護へ取り組むことを約束した。

 

<宣言から具体的な取り組みへ>

 91年の決議には、具体的な行動が盛り込まれていなかったが、95年の市長声明(当時はウェリントン・ウェブ市長)において、以前から参加していたICLEI(当時、世界環境自治体協議会)のCCP(Cities for Climate Protection)キャンペーンへの参加について公式に言及し、環境リーダー自治体を目指す方向が示された。具体的な取り組みとしては、交通信号へのLED(省エネ型ダイオード)の導入(交差点1200箇所)、市立公園及び街路へ年間1000本の植樹、市職員の自家用車使用を減らすためにバス定期代へ補助、自転車道・駐輪場の増設、家庭向けエネルギー・ラベリング・プログラム、風力エネルギーの購入などが宣言された。
 市のプログラムは市長声明に先立ち93年に開始されている。その中心は3つのプログラム、すなわち@グリーン・ライト、Aグリーン・フリート(フリートは車両の意味で、ここでは公用車を示す)、B植林である。グリーン・ライトは、市有建築物における照明設備をエネルギー効率の高いものへ置き換えていくプログラムである。また、グリーン・フリートは公用車を燃料効率の良いものや化石燃料以外の燃料に切り替えていくプログラムである。これら2つのプログラムの結果は、97年までの実績として、年間16550トンの二酸化炭素削減に相当するという。
 95年時点の地域における部門別温室効果ガス排出量は、もっとも多いのが業務部門で34%、次いで運輸部門29%、家庭部門18%、産業部門13%、廃棄物焼却6%となっており、産業部門が少ないのが特徴である。なお、1人あたり排出量は22トンとなっている。
 98年に当初の3項目を中心とした行動計画が改定され、多様な対策が5分野に整理された。それは@建築物におけるエネルギー効率向上、省エネルギー、A再生可能エネルギーの利用拡大、B交通と都市計画、C緑地や樹木の保全及び教育、D二酸化炭素の保管貯蔵である。この行動計画中のすべての対策がとられると、全体で年間2万5500トンのCO2排出削減に相当すると見込まれた。

 

<10%削減をどう達成するか>

 「グリーンプリント・デンバー」で掲げた2012年までに住民一人当たり温室効果ガス排出量を10%削減(90年比)する目標達成に向けて、グリーンプリント中の行動計画(全部で10項目)で、表のように7項目が関連する。
 この7項目を一見してわかるように、デンバー市の温暖化対策は、自然エネルギー導入施設の整備によって生み出される財源をもとに、建築物対策と交通対策に重点が置かれている。本号の上岡論文と合わせ、日本の自治体においても実効性ある温暖化対策が推進できるよう参考にしていきたい。

表 デンバー市の気候変動対策(グリーンプリント・デンバーの関連項目)


注1:SustainLaneによる持続可能性ランキングは、2004年11月、全米25都市を対象として始まったものである。具体的には、持続可能性に関する12の分野における指標をもとに「持続可能性のリーダー」から「危機に瀕する持続可能性」まで5段階に分けられる。
 翌年のランキング(2006年版)では、対象が全米で人口規模の大きい順に50都市、分野は15に増加した。15分野は以下の通り。仕事に向かう交通手段、地域交通、渋滞、大気環境の質、NGOと情報公開、水道水の質、LEED(注2参照)に基づく建築物、地域産の食料・農業、都市計画・土地利用(都市拡散)、手ごろな値段の住宅、自然災害リスク、環境と経済の両立、エネルギー、市政改革(グリーン購入、環境配慮建築物への補助、車の乗り合い・カーシェアリングプログラム等)、知恵とコミュニケーション・協働。
http://www.sustainlane.com/参照。
注2:LEEDは“Leadership in Energy and Environmental Design”の略で、アメリカ・グリーン建築協議会のエネルギー環境デザインに関するリーダーシップのこと。同協議会は、建築業、設計業、ESCO事業者、建材業者、NPOなどで構成され、自主的かつ合意に基づく全国の基準として建築物に関する7分野(業務用新築、既存建築の運用、業務用内部、躯体、家庭、地区開発、機器設備 編)のLEEDを定めている。