地方鉄道の危機と新しいビジネスモデル


環境自治体会議 環境政策研究所 上岡直見


 11月12日、上田市において「第2回全国鉄道まちづくり会議 上田大会」が開催された。本号の発行が12日を過ぎてしまったため、事前の案内はかなわなかったが、鉄道まちづくりをめぐる最新の動向を紹介する。

 

●地方鉄道の危機●


宮崎県の高千穂鉄道が、廃止の危機に直面している。高千穂鉄道は、1989年4月にJR九州の高千穂線を地元が出資する第三セクターで継承して発足した。宮崎県の延岡市から、神話の里で知られる高千穂町まで、全線50km で1市3町を結んでいる。景勝地が多く観光路線としても機能していたが、2005年9月の台風14号による五ヶ瀬川の水害により、写真のように甚大な被害を受け、全線で運行を停止している。地元では、11月に株主総会で全線再開をめざすことを決定したが、なお厳しい状勢にある。


 著名な観光地である高千穂で観光客が激減している。この影響は、2003年12月に廃止されたJR西日本の可部線(広島県)のケースに似ている。可部線は災害でなくJR西日本の経営上の判断で廃止されたのであるが、終点の三段峡温泉で、観光客の入込み数が7〜8割も減少した。観光客の交通手段は、鉄道よりクルマのほうがずっと多く、鉄道の利用者がいなくなった分の影響だけであれば減少率は1割にも達しないはずである。しかし大きな落ち込みが生じた理由は、終点の町が人々の印象上で「地図から消えた町」となってしまったためである。
 道路は災害復旧費が公費で負担されるのに対して、鉄道の災害復旧費を公費で負担する明確な枠組みはない。過去の災害復旧の事例では、河川改修の予算で鉄道を復旧するといった苦肉の策も取られてきた。地球温暖化の影響が指摘される台風の大規模化に対して、鉄道の復旧費用を支出する枠組みがなければ、台風のたびに地方鉄道が消滅し、環境負荷の低減に貢献すべき日本の鉄道ネットワークが崩壊してしまう。

 

●鉄道廃止の影響●


 理由は何であれ、鉄道が廃止されると、沿線住民のモビリティが低下する。JR九州の山野線の事例で見てみよう。山野線は熊本県の水俣と、鹿児島県の栗野を結ぶ、全線56kmの路線で、地方都市を起点・終点として、農村部・山間部を結び、高千穂線と似た性格の路線であった。1988年に廃止され、第三セクター等への継承はなされずバスに転換された。その転換バスが表1のような経過をたどっている。転換直後に鉄道より便数が増加した区間もあったが、転換後5年を経過すると、鉄道時代よりも便数が減り、一部の区間で路線そのものが廃止されるなど、公共交通の全滅に至った区間もある。鉄道時代には連続していた鉄道路線を細切れのバス路線にしたために、ますますネットワークとしての機能が低下し、運行に困難を来したものと考えられる。



 最近では、大都市周辺の大手私鉄でも、路線の廃止が起きている。たとえば名古屋鉄道で、2001年4月に名古屋市・岐阜市周辺の4路線・合計31kmが廃止され、バスに転換された。転換後1年の実態を調査すると、表2のように運行本数の減少などサービス低下、利用者数の急激な落ち込みが生じている。表2には示していないが、運賃が1.5〜2倍に上昇し、特に各世帯の私的負担となる高校生の通学定期の負担が大きくなっている。



 さらに2000年に実施された鉄道事業法の改正により鉄道事業に対する参入・撤退の規制が緩和された以後、路線廃止のペースが加速している。参入・撤退の規制が緩和されたといっても、新規に参入する事業者はなく、「撤退の自由」のみが行使される結果となっている。しかし一方で、民営の事業者によって経営されている鉄道路線を「赤字でも運行を継続せよ」と強制する根拠は見出しがたいことも事実である。

 

●鉄道存続の新しいビジネスモデル●


 このような事態に対して、沿線の自治体・住民の協働による取り組みが始められ、鉄道存続の新しいビジネスモデルとして、最近の数年間に注目すべき成果が挙がっている。存続成功の共通点として、自治体の積極的な関与に加えて、単に線路が残ればよいという発想でなく、鉄道と連携したバスなど面的な公共交通のレベルアップによる増客努力と、まちづくりとの関連づけが指摘される。