財政的支援策で環境農業を一歩前へ!
             ―各地で進む環境直接支払制度の検討から
滋賀県で導入された環境保全型農業への転換を促す直接支払制度が、自治体の注目を集めている。地域の課題に的を絞った財政支援策の導入目的と有効性についてレポートする。
                                           環境自治体会議事務局 竹下 涼子

 

◆自治体の「環境農業推進制度研究会」が発足体

 環境保全型農業の推進を目的とした「環境直接支払い制度」の実践・検討が各地で進んでいる。生産不利地域に対する格差是正を目的としたデカップリングとは異なり、地域の農業を環境にやさしい生産体制へと転換することを目的とする、個別農家に対する新たな支援制度だ。2004年4月、全国に先駆けて環境直接支払い制度を実施した滋賀県に続き、福岡県でも制度確立に向けたモデル事業が始動した。
 今年7月には、滋賀県、福岡県、千葉県、岩手県の呼びかけにより「環境直接支払いを中心とした環境農業推進制度研究会」(会長:滋賀県知事・國松善次/現在16都道府県が参加)が発足。各自治体の取組みや政策効果を共有・分析しつつ制度の充実・発展を目指すとともに、国の制度に対する共同提案も視野に入れた活動を展開している。発足を記念して8月29日(月)に東京大学武田ホールにて開催されたシンポジウムから一部事例を紹介する。

 

◆導入を機に環境農業の作付面積が拡大――滋賀県

 今年5月の東海村会議でも取組みが高く評価された滋賀県の「環境こだわり農業」推進政策。その事業の核となるのが、県と農業者の協定に基づく農産物認証と、環境直接支払制度だ。
 県面積6分の1を占める琵琶湖を抱える滋賀県では、化学肥料や農業濁水による琵琶湖への負荷軽減を重要課題と認識し、農家の啓発活動に力を入れてきた。しかし、農家の自助努力にも限界があることや、それらの努力や負担が消費者に見えづらいとの課題を受け、2004年4月に全国初の環境こだわり農業推進条例を策定。2001年から進めてきた「環境こだわり農産物認証制度」を条例に位置づけるとともに、認証にあたっては県知事と農家が生産協定を締結することとした。農薬・化学肥料の使用量を慣行の5割以下に削減、濁水の流出防止等、県の定める生産基準をクリアすると「環境こだわり農産物」の認証が受けられるほか、コスト増加分に見合う環境農業直接支払交付金が受けられる。制度導入以後、環境こだわり農産物の作付面積は飛躍的に拡大し続けている(上図)。
 個別農業者を対象とする上記の政策に加え、県では、農業の多面的機能を増進させる政策として、「農村環境直接支払」も実施。循環かんがい施設など水田の農業排水をリサイクルする施設を対象とした流域単位の取組に対する交付(※1)とあわせ、美しい田園景観形成を目指す集落単位の取組に対する交付制度 (※2)も展開。支援を行う地区の選定にあたってはそれぞれ、プロポーザル方式、オークション制度が適用され、環境改善効果がより期待できる地域に的を絞った支援を展開するとしている。
 県は昨年秋より効果の検証にも着手。定量的評価による基礎データづくりと、琵琶湖流域の水質保全効果のシミュレーションによって、政策のさらなる推進を図るとしている。


 

◆生物指標で農の恵みを実感――福岡県

 福岡県でも現在、農業がもたらす多面的機能の維持・保全を目的とした環境直接支払制度の検討が進んでいる。県は生物多様性、水源涵養、景観の形成、文化の伝承といった農業のもたらす多面的機能を「農の恵み」と名づけ、その価値を積極的にアピールするとともに、県民の合意の下に環境保全型農業を支援していこうと、今年度は14のモデル地区を設置。減農薬栽培が自然環境の保全にどれだけ効果を上げたかを実証した上で、直接支払を行う上での「ものさし」を作成するとしている。
 特徴的なのは、効果の検証に生物指標を用いていること。蛙、水生昆虫、ヘビ、カニといった目に見える環境指標を選定することで、県民や農業者自身に「農の恵み」を実感してもらおうとのねらいが込められている。田んぼに棲む生物75種の個体数調査は、地域住民やNPOなどの参画を得つつ農家主体で実施される。作業を通じて地域農業に対する理解を深めた上で、直接支払の実施へつなげたいとしている。
 

◆地域の環境農業スタンダードを策定しよう

 滋賀県、福岡県とも環境直接支払制度という手法を用いてはいるが、交付基準の設定や制度づくりのアプローチにはそれぞれの特色がある。「環境直接支払制度は、地域の課題に的を絞ったオーダーメイド的な手法として有効」(滋賀県農政水産部長)との言葉が示すように、どこへどのような財政的支援を行うかは、地域農業の抱える課題と目指すべき将来像に基づき決められるからだ。支払の根拠となる評価基準をどう設定するか、またその策定プロセスに何を求めるのかも、地域ごとに検討されてしかるべきだろう。環境直接支払制度の検討をきっかけとして、自治体ごとに農業者、消費者が一体となった環境農業スタンダードづくりが活発化し、国の農業政策を押し上げていくことを期待したい。

※1:市町村や土地改良区、関係農家などから成る「田園水循環推進協議会」に対して、リサイクル水量に応じて交付される。2005年度には9地区、371haで取組が進んでいる。
※2:公募によるパイロット事業として展開され、営農活動以外に行われた景観保全に対する掛かり増し経費の2分の1が交付される。2005年度には8地区186haで取組が進んでいる。