米国自治体の成功例に学ぼう!〜実効性ある温暖化対策の姿〜(1)



 米国政府は依然として京都議定書を批准せず、技術開発や途上国問題に特化した枠組みを模索しているが、その自治体レベルでは、日本の自治体を超えるほど温暖化対策の実施に成功し、既に劇的な成果をあげているところがいくつかある。
 2005年7月に上下両院で可決されたエネルギー法案は温暖化対策を前面に掲げていないものの、エネルギー効率化、再生可能・代替エネルギーの利用拡大という面で、自治体が主導してきた政策を後追いするものといえなくもない。メディアの関心は常に政府へ注がれがちだが、今回は自治体レベルの成果に光を当て、日本の自治体における温暖化対策の前進のために参考となるポイントを探ってみよう。(文責:増原直樹/環境自治体会議環境政策研究所)

 

■全米市長会、満場一致で「気候保護合意書」採択


 2005年6月13日、シカゴで開催された全米市長会議(※注)において、連邦政府・議会や州政府などに対して京都議定書の履行を求める「気候保護同意書」が満場一致で可決された。この同意書の呼びかけ人となったのは、ワシントン州のシアトル市長(グレッグ・ニッケルズ)をはじめとして、ソルトレイク市長(ユタ州の州都、2002年のオリンピック開催地)、サンフランシスコ市長・サンタモニカ市長(カリフォルニア州)、ポートランド市長(オレゴン州)、ミネアポリス市長(ミネソタ州)など9人の市長であった。
 同年3月30日に彼ら9人の連名で、全国の400以上の市長に対し、地球温暖化防止をめざした積極的な追加行動をとる取組みへの参加が呼びかけられ、8月10日現在、175の市長が参加を表明している。同意書の内容は表1のようになっている。

 この呼びかけ人になった市長たちのいる自治体から、今回・次回にわたって2つの事例をみてみよう。

 

■ポートランド市(ムルトマ郡)では1人当りCO2排出量を13%削減!

         〜交通政策とエネルギー効率向上策〜


 ポートランド市(人口約53万人)は93年、米国の自治体で初めて地球温暖化に対処する計画を策定した。2001年には、ポートランド市を含むムルトマ郡(行政評価で先進的なオレゴン州の中でも特に著名)も同計画に参加した。この時に計画が改定され、2010年までに90年比10%削減の目標を掲げ、その達成のための100以上の短期〜長期的な行動を含む計画となった。
 ポートランド市・ムルトマ郡は、それらの行動計画の内容を実行に移した。2004年現在の結果は、総量では90年比をやや上回る程度、人口1人あたりでは12.5%の削減となっている(図1、表2、表3)。この結果は、人口や経済指標が伸び続けている中で、成功と評価されて良いだろう。実際に全米でこれほど成果をあげた都市はないといわれている。

注※ 全米市長会議は1932年に設立され、約1,100ある人口3万人以上の都市の市長がメンバーになる団体。毎年1回、各都市が開催都市となって、全米市長会議総会を開催する。

 このような成果をあげた要因はどこにあるのだろうか――市に設置された持続可能な発展室(OSD:Portland Office of Sustainable Development)は、この成功の主因を、市民・NPO・事業者・自治体が以下の諸点に取り組んだからだとみている。




●LRT1路線及びポートランド・ストリートカー1路線等のサービス開始(90年以降公共交通利用75%増加)
●オレゴン・エネルギートラスト(※注)の創設及びエネルギー効率改善・再生可能エネルギープログラムへの継続的な財政支援
●40にのぼる高効率のグリーン建築物の建設
●1万軒の共同住宅及び800軒の戸建住宅の耐候性化
●ポートランド市役所の電力利用において10%以上の再生可能エネルギーを調達
●54%に達するリサイクル率(全米一)
●市内への75万本の植樹(96年以降)





 LRTは郊外の高速鉄道と乗り入れるシステム路線であるのに対し、ポートランド・ストリートカーは、LRTよりも軽量で速度の遅い車両を用いていて、市内を循環する路面電車である。ともに、中心市街地付近では無料区間が設けられており、車いすやベビーカーなども乗り込みやすい車両となっている。
 ポートランド市と姉妹都市になっている札幌市にある「札幌LRTの会」によれば、ストリートカーの成功要因として、地方自治体と沿線の事業者などからの資金で建設したこと、地域の都市再開発計画とうまく連動できたこと、LRTによる成功例が間近にあったことがあげられている。
 エネルギー効率向上のメニューとしては、建築物そのものの改善に重点が置かれており、2000年以降の成果として、建築物にかかわる1人あたりのエネルギー消費を7%削減させることに成功したという。このもっとも重要な主体としてあげられているのが、オレゴン・エネルギートラストである。同トラストは、オレゴン州の電力事業再編法に基づいて2002年3月創設され、ポートランド市・ムルトマ郡の住民・事業者に電力を供給する3つの会社の顧客に対して、エネルギー効率向上及び再生可能エネルギー導入プログラムを実施している。トラストは当初の2年間で、郡内の200事業者と1万4000世帯に対して、エネルギー効率向上支援金を提供し、数百万ドルに及ぶ省エネ効果を生み出した。
 また、市と気候トラスト、エネルギートラスト、ムルトマ郡、オレゴン州エネルギー省の協働事業では、2003年に1万軒の共同住宅のエネルギー効率を向上させた。
 グリーン建築物とは、エネルギー効率向上をはじめとする環境配慮型の建築を促進するために、2000年にOSDが考案したプログラムで、設計・開発・建築業界や市民に対して、技術的助言、教育、財政的支援策を提供するものである。2001年以降、市は300以上の建築物に対して技術的・財政的支援を提供してきた。  市の事業の中でも、目標年度を前倒しして交通信号を高効率のLEDライトに転換し、年間500万kWhの電力と50万ドルの維持費を節約している。
 ムルトマ郡のエネルギープログラムの中でも成功を収めたものがある。2002年に郡が定めたエネルギー節約基準は、照明、冷房、コンピューターといった様々な分野のエネルギー消費機器・活動についてのエネルギー効率に関する基準である。また、郡内の再生可能エネルギー導入を増加させたプログラムもある。  こうした先駆的取組みは、オレゴン州の土地利用政策、交通政策や地域計画と密接に関連しているため、継続した取組みが長期にわたってさらなる成果を生む可能性があるといえる。両市・郡にとって、2010年に10%削減を達成することは依然として野心的な目標であるが、市ではこの目標でさえ気候変動へ対処する初動段階の目標に過ぎないと考えている。というのも、多くの科学者たちが指摘しているように、気候変動を人類の生存にとって脅威的でないレベルに安定化させるためには長期的に60〜70%の削減が必要だからである。 (次号へ続く)

注※ エネルギートラストは、欧米を中心に近年増加しているエネルギー効率向上と再生可能エネルギー導入の促進を目的とする組織である。オレゴン州の場合、非営利団体として活動しているが、活動の内容はオレゴン州の公益事業委員会との補助金協定(2001年11月締結)に基づいている。同トラストには顧問委員会が設置され、産業界やエネルギー事業者(もっとも委員数が多い)、州職員、ポートランド市職員などが委員を務めている。