自治体の交通CO2対策


 (文責:環境自治体会議環境政策研究所 上岡 直見)
 
 ロシアの京都議定書批准が確実となり、二酸化炭素(CO2)削減が「待ったなし」の様相を濃くしている。中でも、基準年からの増加率が大きいといわれる交通部門の対策は抜本から強化されることが必要だが、自治体で対策をとる場合の出発点、すなわち地域の交通が原因となるCO2排出はどのようになっているのだろうか。最新の研究成果を踏まえ、自治体交通CO2対策の進め方について解説する。

◆ 温暖化と交通

 日本は京都議定書で、2010年までに、温室効果ガスを1990年に対して、全体として6%減らすと約束している。
 国立環境研究所の報告*1によると、日本の2001年度の温室効果ガスの総排出量はおよそ13.1億トンである。そのうち、エネルギーの使用にともなって排出されるCO2が12.3億トンで、温室効果ガスの大部分を占める。京都議定書の目標達成の基準となる1990年の排出量(11.2億トン)と比べると、達成期間のおよそ中間で、削減どころか逆に8%の増加となっているという、厳しい現実がある。増加に影響を与えている分野をみると、交通部門と、業務・家庭部門が大部分を占めている。
 さらに交通部門の中で、分野別に増加要因をみると図1のようになっている。貨物輸送から排出されるCO2は若干伸びているものの、全体に占める比率は少ない。また旅客の公共交通系(鉄道・バス・タクシー・航空機など)では、陸上の鉄道とバスからの排出が微減に対して、航空機が伸びている。公共交通系としてまとめると、双方の増減は相殺され、図上ではゼロに表示されている。
 全体として、増加分のほとんどを占めているのは、乗用車である。乗用車は、個人のいわゆる「マイカー」として使われる家庭部門と、企業で使われる業務部門*2がおおむね同じくらいの増加量を占めている。
 これより交通部門での温暖化対策は、家庭および業務の乗用車対策が重点となることがわかる。

 *1 : 「GIOインベントリオフィス」 http://www-gio.nies.go.jp/gio/db-j.html
 *2 : タクシー等の運送事業(青ナンバー)でなく、営業、サービスなどに使われる業務用車(白ナンバー)である。

◆ 自治体の交通CO2 対策

 このように、温暖化の観点からは深刻な事態ではあるが、交通に関して自治体が対処すべき問題は、温暖化対策だけではない。交通事故の防止・大気汚染や渋滞(大都市)・交通弱者の移動の確保など多岐にわたる。全国の自治体にアンケートを実施した結果*3では、特に農山村部において交通弱者の移動が深刻な課題であり、交通部門での環境対策まで手が回らないという回答が多かった。
 このため自治体によっては、環境政策の中で、交通分野が必ずしも優先課題となっていないように思われる。施策としても、自治体の業務部門での低公害車の採用、アイドリングストップ、自主参加に委ねたノーマイカーデー等にとどまり、自治体として、面的な交通環境対策まで広がっていないのが実情ではないだろうか。
 しかし温暖化対策に注目した場合、農山村部ほど公共交通のサービスが乏しく、住民の生活が自動車(マイカー)に依存せざるをえないため、住民一人あたりの自動車関係の燃料消費が多くなる。
 環境自治体会議の会員の多くを占める農山村型の自治体は、温暖化に関する交通環境対策では大きな問題を抱えていることになるが、一方でそれだけCO2の削減ポテンシャルは大きい。
  会員自治体の中でも、公共交通機関が発達した大都市圏もあれば、鉄道やバスの便が少ないか、ほとんど存在しない農山村部もある。そこで、産業部門や民生(業務・家庭)部門と同じように、交通も地域の特性を反映して、少なくとも市区町村単位での対策が重要である。
 一方で、住民の意識の点でも、交通環境問題は、他の分野とかなりずれている。たとえば、自治体の伝統的な業務であるごみ処理と比べてみると、その違いがわかる。自治体によってルールに温度差があるにしても、いまや住民の意識として、ごみ減量・分別に反対する人はいない。実態面として協力に個人差が出る程度である。名古屋市のごみ減量作戦など、そんなことができるわけがないと思われていた対策が、多くの住民の協力を得て実施されるようになった。
 ところが交通となると、ほとんどの住民は交通と環境にかかわる問題を意識していないし、行政にしても、何からどう手をつけて良いのかわからない、というのが実態であろう。いくつかの自治体では、専門コンサルタントに依頼して、交通に起因する単年度のCO2排出量を推計している例もあるが、自治体全体としての交通CO2を削減する施策にはなかなか結びつかない。

*3:  上岡直見『持続可能な交通へ』緑風出版, 2003年。

◆ 交通CO2対策のむずかしさ

 手がつけにくい理由として、
 (1)市区町村単位での、交通CO2の発生量の推計手法や、効果の評価方法が複雑であり、専門家に依頼する必要がある、
 (2)特定年次について総量の推計ができたとしても、個々の施策によってどのくらい削減できるのか、担当者レベルでは自前で評価が困難である、
 (3)施策の実施状況と対比させて、年々評価して管理することができない、
 等が挙げられる。
 日本全体での削減施策の基本となる政府の「地球温暖化対策推進大綱*4」では、「2010 年において、エネルギー起源(交通に関する事項では自動車燃料など)のCO2を1990 年レベルに維持(増加ゼロ)する」となっている。
 多くの自治体の削減計画も、これにならったシナリオで立案されており、自治体によっては、1990年レベルに維持するだけでなく、自主的に上乗せの努力を期待して、削減目標を掲げているケースもある。
 いずれにせよ、具体的に数値目標を設けて、計画を立て、進捗を管理するためには、少なくとも1990年と2010年の2つの時点について、その自治体でのCO2発生量を推計する必要がある(合併の取り扱いもあるが、複雑になるのでとりあえずここでは考えないものとする)。
 2010年については、未来のことであるから何らかの方法で推定するしかない。一方1990年についても、国・都道府県単位の統計はあるが、市区町村単位では数字が得られない。たまたまその年度において、独自の調査が行われていれば別であるが、通常は過去の数字も推計によらざるをえない。こうした計算を実施するには、どのような方法があるのだろうか。

*4: 1998年に策定、2002年に見直し・改訂された。

◆ 交通CO2 算出と対策

 交通CO2の発生量を求める基本的な関係を解説してみたい。
 交通といっても、原理は業務や仮定など、他の分野と共通である。すなわち─
 排出量(kgCO2 ) = 排出量原単位(kgCO2 /台km)×走行台数(台)×走行距離(km)
 という基本的な関係である。  たとえば家庭における電力使用量を推計するときに、家電製品なら、
 1台あたりの電力消費量(原単位)×保有台数×年間使用時間
 という関係から、年間の電力使用量を推計するのと同じである。
 ところが交通の場合、それぞれの項目に、具体的にどのような数字を入れたらよいか、担当者レベルで判断がつかないことが多いであろう。たとえば、登録されている自動車の台数は調べることができるが、その自動車が年間何km 走行しているかとなると、ほとんどデータは得られない。統計集をみても、国レベルの平均値か、良くても都道府県レベルの数字が出ているだけなので、単純に計算すれば、ある都道府県内では、どこの自治体でも1台あたりの走行距離が同じという取り扱いになってしまう。これでは、自治体に固有な数字を出すことができない。
 さらに、事業所や住宅のような固定物からのCO2と異なり、移動体である交通では、難しい問題がある。
 たとえば図2のように、自動車でA 市のある地点からB 市の別の地点に移動したとする。
 この場合、「A市におけるその自動車からのCO2 」は何kg だろうか。
 かりに行政境界で区切るとしても、具体的にその数字が計算ができるだろうか。また、移動している自動車は、A市の住民が保有している自動車なのか、それとも他所から来てたまたまA市に立ち寄った後にB市へ移動しているのか、いずれのケースもありうる。もし後者であれば、対策として自動車の利用自粛や、自転車・公共交通への乗換えを呼びかけても無理がある。
 こうした事情から、交通CO2の推計と、その対策を実施するには、集計方法を定義して計算することが必要となる。すなわち─
 @ 自動車の登録地(使用の本拠)ベース
 A 自動車の出発地ベース
 B 自動車の到着地ベース
 C 自動車の通過地ベース
 D 給油地ベース
 等の定義である。
 たとえば
 @のケースは、その自治体に登録されている自動車を対象として集計される。このため「他所から来て、A市に立ち寄った」という自動車からの分は集計されない。
 これに対して
 Aのケースは、A市に出発地を持つすべて*5の自動車を対象として集計される。
 Bは、逆にA市に到着地を持つすべての自動車を対象として集計される。
 Cは、自動車の登録や出発・到着に関係なく、その自治体の行政境界内で動いている自動車からのCO2 を集計する。この方法は一見すると正確なように思われるが、必ずしもそうではない。行政境界内に高速道路や幹線道路があって、大部分が通過交通である場合には、CO2の排出が、そこの自治体に起因するものとは言えないし、自治体としての対策も及ぼしようがない *6。
 Dは、その自治体に存在するガソリンスタンドで給油した量を基準とする集計である。しかし、ある自動車がその自治体内で給油しても、自治体の外へ行ってしまうかもしれないし、またその逆もありうるので、必ずしも自治体単位でのCO2 発生量をあらわしていない。
 このように、@〜Dのいずれの定義を使っても、絶対的にどれが正しいとは決められない。そこで我々は、これらを検討した結果、考えられる対策メニューと照らし合わせた上で、どの定義による発生量を使うかを決めればよいと考えている。
 @の自動車の登録地(使用の本拠)ベースについては、その自治体の住民が所有・使用する自動車にかかわる発生と考えられるから、できるだけ自動車の使用を控えて公共交通を使うようにする施策が考えられる。また、山間地など公共交通のサービスが乏しく、公共交通へのシフトが困難であれば、低燃費車の利用や、バイオ燃料の使用を奨励する施策が中心になるかもしれない。
 
 *5:  実際にはすべての自動車を追跡しているのではなく、サンプリング調査(OD調査)によって推計されている。
 *6:  大都市圏のように、複数の隣接自治体が協同して、ロードプライシングを実施する等の施策はありうるが、ここでは触れない。

◆ 自治体向け手法の開発と試算

 次の問題として、自治体の担当者が、実際に計算するためのデータを入手し、使いこなすことができるかどうかという制約がある。前述の@〜Dを実際に計算するには、「道路交通センサス(一般交通量調査)」「道路交通センサス(自動車起終点調査)」「全国パーソントリップ調査」をはじめ、その他の補助的な統計を含めて多くのデータを必要とし、専門的な処理を必要とする。
 こうした問題に対して環境自治体会議では、国立環境研究所と会員自治体の協力を得て、
 (1) 市区町村単位で、できるだけ担当者レベルで一定の精度で交通CO2の総量推計ができること、
 (2) 市区町村の状況に合った交通CO2 対策メニューを選定し、その削減効果が定量的に予測できること、
 (3) 対策メニューの実施状況のモニターをもとに、削減効果を自前で推計できること
 を目標に、交通CO2を推計して、さらに対策につなげる手法を開発している。
 今回は紙数の制約から、推計の詳細や、削減の対策面まで解説できないが、現時点までに開発した結果を用いて、次の図3に、会員自治体ごとに、住民1人あたりの旅客および貨物の交通に起因する、年間CO2排出量の推計結果を例示する。この数字は、前述の集計の定義でいうと、@の自動車の登録地(使用の本拠)ベースである。
 ただし試作段階であり、計算の精度についていくつかの検討課題が残っていることから、図では個別の自治体名は表記していない。また島嶼部の交通統計データがないため、会員自治体の中で東京都小笠原村、鹿児島県上屋久町、同屋久町については算出できないので、ご了解願いたい。
 会員自治体の中でも、まず旅客の移動については、公共交通機関が発達した大都市、人口密集地が部分的に存在する中小都市、自動車に依存せざるをえない農山村部など、状況が異なる。また貨物の輸送についても、産業の立地状況や商業集積など、それぞれ異なる。
 こうした影響から、図3に見られるように、住民1人あたりの交通CO2の排出量は、最大で5〜6倍の開きがある。また旅客と貨物の比率も異なる。状況に応じて、各自治体ごとに、個別の対策を立てる必要があることが、この図からも読み取れるであろう。
 筆者は、公用・私用で大部分の会員自治体を訪問するか、少なくとも通ったことがあるが、地理的な印象が似ていても、住民1人あたりの交通CO2の発生量がかなり異なる自治体がみられる。
 なぜそうなのかという理由が興味のあるところであり、それが整理できれば、CO2の削減対策に有用な手がかりとなるであろう。
 現在、いくつかの会員自治体の協力を得て、自治体ごとの交通CO2排出量の推計結果を、実際の削減対策に適用する検討を始めている。また今年度中に、会員自治体を対象として、交通CO2 排出量の推計に関する説明会・意見交換会を開催する予定である。今後もご協力をお願いしたい。