特集 「平成の大合併」で環境政策はどうなる?

 「平成の大合併」の波が、環境自治体会議にも押し寄せています。任意協から法定協へ移行するところ、協議が決裂し法廷協を解散したところなどもあり、状況は刻一刻移り変わっていますが、合併特例法の当初期限である平成17年3月31日までの半年の間に、会員の6割にあたる約40自治体が合併を検討しています。
 発足以来、個性的な首長や行動的で熱心な職員の方々に支えられ、全国各地に仲間を増やしてきた環境自治体会議も、今回の合併で初めての危機的局面を迎えることになります。直接の会員数減のみならず、それぞれの自治体が苦労の末に築き上げてきた、土地柄と結びついたユニークな政策が、今回の自治体再編により拡散してしまうのではないかということが、何よりも懸念されるところです。
 環境自治体会議には、地域特性をポジティブに捉え、政策へ取り入れていこうとする自治体が数多く参加していますが、そうした政策を新たな自治の場へどう引き継ごうとしているのか、目下の課題も含めていくつかの自治体に伺いました。
 (文責:事務局 竹下涼子)

◆合併を機に町民節電所の拡大をめざす――山形県立川町

 山形県庄内地方では、北部、南部、中央でそれぞれ合併法定協議会が設立、立川町は余目町との2町合併に向けて、現在協議を重ねている。当初は平成16年12月1日を合併期日としていたが、予定より若干遅れて来年7月1日を目途に協議を進めている。
 立川町は、風力発電の設置をきっかけとして、自治体エネルギー政策の牽引役として、全国に名をはせてきた。設置当初は地球温暖化対策や環境問題への対応というより、むしろ地域振興や町の活性化をねらいとして進められた風力発電事業であったが、いまや町営、第三セクター、民間事業などによる本格的なウィンドファームが建設され、町全体の電力使用量の約57%を賄うまでに至っている。そうした地域資源を軸に、立川町では昨年8月、「自然エネルギー100%の町」実現に向けて、「町民節電所」事業を始動。「発電」に「節電」という新たなアプローチを加えることで、電力100%自給を達成しようとの試みだ。
 「町民節電所」に取り組む町民には、地域の商店や事業所で利用できる地域通貨「フーちゃんチケット」が配られる。登録者である100世帯とチケット参加協力商店が、地域のエネルギー自給率を押し上げる。新町の政策全般については、現在、協議会の下部組織である小委員会にて詳細を詰めているが、立川町環境課は今回の合併を機に、町民節電所計画のさらなる推進をはかりたいと意欲を見せている。新町の環境政策については、立川町がリードをとるかたちで進める予定だ。
 本年4月に組織改正を行い、環境課を新設した立川町では、課内には新たに新エネルギー推進担当係を設置し、木質バイオマス等も視野に入れた地域エネルギー政策全般へと取り組みを拡大しようとの意向を持っている。新町への移行により、オリジナリティある地元に根ざした取り組みがさらに発展することが期待される。

◆町の蓄積をどう引き継ぐか――秋田県二ツ井町

 規模の異なる自治体同士の合併には、政策調整の上で困難も多い。二ツ井町を含む山本郡内6町村と能代市とは、本年5月に法定協である能代山本市町村合併協議会を設置(同郡藤里町は、平成15年4月に単独立町を表明)。平成17年10月を目指して協議を進めている。
 二ツ井町では、環境負荷の低減と地域振興をねらいとした共用自転車の活用や、合併浄化槽の推進など具体的な実践活動にポイントを絞った環境政策を展開、平成12年には県内でもいち早く環境管理システムISO14001を導入するなど、環境自治に対する積極的な体制をつくりあげてきた。そうした町の環境政策は、すべて新市に引き継ぐというのが町の基本的なスタンスではあるが、細かいところまではまだ詰めるに至らないという。
 町では環境自治体会議と共に、地域の環境マネジメントにふさわしい管理システムの開発に取り組んできた。現在では管理の範囲を本庁舎から地域の公共施設へと拡げた上で、住民参加型の環境マネジメントシステム「LAS-E」を実践している。システム導入にあたってはさまざまなレベルでの合意形成、庁内への周知徹底など決して平坦とは言えない道のりを一つひとつ歩んできた経緯がある。新市となった後もLAS-Eを継続していきたいとの意向だが、町のこれまでの蓄積と他の市町村との隔たりは大きい。政策担当レベルでは合併引き継ぎまでに、これまでの町の取り組みの成果をかたちとして残そうと、日夜奮闘を重ねているところだ。

◆全戸加盟のNPOを設立――新潟県安塚町

 旧町で培われた取り組みや住民自治を合併後へどう引き継ぐのか。新潟県安塚町(昨年度で環境自治体会議は退会)では、地域自治組織の検討過程から、地域づくりNPOの設立という手法を選択した。ユニークなのは、町内の全世帯と企業・団体の加入による「町全体がNPO」をめざしている点。確かなコミュニティの基盤を固めつつ、安塚スタイルによるまちづくりを新たな未来へつなげるために、安塚町の新たな挑戦がスタートした。
 安塚町ほか13町村は、来年1月1日、人口約14万人の上越市と合併する。編入合併により、町が経営する第三セクター、雪だるま財団やキューピットバレーは新市へと引き継がれる。豪雪を逆手にとり、地域エネルギーとして利活用するという「雪を活かしたまちづくり」や、その実践過程で育まれた住民自治の取り組みが、無に帰すのではないかとの危機感から、ふるさと安塚をどう残せるか、町長はじめ住民グループとの協議がスタートした。
 今年5月には、姉妹都市である岐阜県山岡町の取り組みを参考に、住民自治組織を中心としたNPO法人の設立に向けた検討がスタート、8月29日には「NPO雪のふるさと安塚」の設立総会が開催された。
 総会では矢野学町長が、合併後も安塚らしいまちづくりを引き続き追求していこうとアピール。確かな基盤づくりに向けて、さらなる積極的な住民参加を呼びかけた。NPOへの世帯加入率はすでに80%と、出だしは好調だ。

◆合併にらみ実証事業で成果を報告――兵庫県青垣町

 青垣町を含む兵庫県氷上郡6町は、この11月1日に丹波市となった。町面積の約8割を森林が占める青垣町は、県の「森のゼロエミッション構想」に基づき、豊かな森林資源を次世代へ残し産業振興へとつなげるためにさまざまな試行錯誤が繰り広げられてきた。平成12年に町が策定した「森と里のゼロエミッション整備実施計画」には、地場産材の公共事業への率先利用ほか、間伐材のエネルギー利用、体験型環境教育といった森林資源をふんだんに生かした事業計画が盛り込まれ、産業課を中心に着実な実施を積み重ねてきた。
 そうした中、町では事業のさらなる前進を目標に、経済産業省の助成により、間伐材と製材所廃材を利用して、木質バイオマスのガス化によるエネルギー利用採算性の調査事業を行なった。調査は合併日程をにらみながら実施され、報告書も完成間近だが、コストに見合う成果が出せそうだとの結果が得られたという。新市での事業化を目指すべく、事務レベルでの引き継ぎも完了し、あとは新市長による政策判断と予算調整を待つのみだ。
 採算が合わない、技術が未熟等々、木質バイオマスのガス化利用はこれまで、事業化の一歩手前で踏みとどまっていた。しかし技術や制度をめぐる状況は、徐々に好転しつつあり、産業では未来へ期待をふくらませている。そうした政策の相互交流も含め、今後も引き続き自治体会員として、各地の環境自治体会議会員との情報交換を行ないたいとのお話も伺えた。

◆合併は環境政策の分岐点となるのか?

 さまざまな自治体担当者にお話を伺う中から、合併に関する自治体間の協議は協定項目中心であり、個別施策の具体までに踏み込んだ目標設定を行なうのは難しいという現場の状況が見えてきました。逆に、条例の細かいすりあわせを行なおうとしたことによって自治体同士の環境に関するスタンスの違いが明確化し、協議の落としどころが見えなくなったという話などからは、合併自体を破談させないために、政策協議の持ち越しは避けられないことも伺えました。だとすればなお、個々の自治体が積み上げてきた政策の未来を占う政策評価が、どのような場でどのような手順を踏んで行なわれるのかが非常に気にかかります。
 「大規模自治体と小規模自治体とでは、条例のつくり方一つとってもやり方が大きく違う。」とおっしゃった自治体担当者のお話からは、小規模町村が消えていくことによるもう一つの危惧も見えてきました。地域全体のバランスを図るあまり、一般的・標準的な政策・制度に落ち着きがちな大規模・広域自治体に対し、小さな町村では住民の合意を積み上げた政策形成が比較的可能であり、地域の個性を全面に出した政策展開が支持されやすい傾向にあります。そうした環境政策の先導役となってきた、地元のいわゆる「名物首長」が、「調整重視型首長」へととって代わり、個性的な町村が大規模自治体へと埋没していくならば、この合併によって失われるものは計り知れないように思われます。
 そうした懸念を払拭し、過去の努力を明日へとつなげるために、現場の担当者は日々の業務に追われつつもこれまでの実績と成果を検証し、未来へ引き継ごうと地道な努力を重ねておられました。地域の実践が、町の記憶とともに新たな自治の場へと引き継がれることを、事務局一同、心から願っております。
 
 
 *****************************************************************************************************
 今回の特集を組みにあたり、立川町環境課、二ツ井町21創造課、安塚町雪だるま財団、青垣町産業課(10月31日現在)の職員の方々にお世話になりました。お忙しい中、ご協力いただきましてありがとうございました。
 
 参考:特集掲載自治体のホームページ
 ・山形県立川町 http://www.town.tachikawa.yamagata.jp/
 ・秋田県二ツ井町 http://www.town.futatsui.akita.jp/
 ・新潟県安塚町 http://www.yukidaruma.or.jp/town/
 ・兵庫県青垣町 http://www.town.aogaki.hyogo.jp/