なぜ見直しがすすまない?〜市街地への農薬散布を考える〜

 史上まれにみる猛暑が続いていますが、この季節、悩ましいのは公園や街路樹の害虫対策。
 安全性と環境配慮の視点から、農薬散布に頼る現状を見直そうと一部の自治体で試行錯誤が始まっていますが・・・。

◆ある自治体の苦悩 〜農薬散布はとりやめたものの・・・

 農業における脱農薬の動きが見直されつつある中、遅々として進まない市街地への農薬散布見直し。そうした中、関東近郊のある市(以下、A市)にて、市の管理する公園・緑地の害虫防除剤を全面無農薬化するとの記事が新聞紙上に掲載された。市域の広いA市で害虫防除剤の脱農薬化が実現すれば、全国の緑地管理行政にも大きなインパクトを与えるのではないか。早速電話で問い合わせてみた。
 A市ではこれまで主に、農薬の一種であるスミチオン乳剤を1,000〜1,500倍に薄めた液を樹木などに散布していた。作業にあたっては近隣住民への周知や、雨風などの天候にも極力配慮してきたとはいえ、健康被害や環境負荷を危惧する住民からは、さまざまな意見が寄せられてきた。市の公園管理担当課で内部検討した結果、今年度から試験的に無農薬剤へと切り替え、効果や効率性を見極めたうえで、農薬散布に代わる手法を検討していくこととしたという。
 市の選択した薬剤は、主に果樹類などに使用される、薄いオブラートの膜で葉をコーティングし害虫を防除するというもの。殺虫による駆除を目的とした農薬散布とは趣旨も若干異なる。だが薬剤には、害虫の気門を塞ぐことで、呼吸困難にさせて駆除するといった効果もうたわれており、報道を知った県からは、農薬取締法に抵触する恐れがあるとの厳重注意が入ったという。
 薬剤の効果にも問題があった。殺虫成分を含まないため即効性は無く、元来収穫を見越して農作物に使われる薬剤であるため、常緑樹への使用効果も必ずしも良好とは言えないという。市では現在、虫害の出た枝を個別に剪定するなどして対処しているが、すでに市民からは、即効性のある薬剤を使用して欲しいとの要望も挙げられている。
 A市には、新聞報道をみた自治体から、すでに何件も問い合わせがあったという。しかし「胸を張って報告できることはまだ何もない。取り組んではみたが難しいというのが現状」と担当者は打ち明ける。リスクを負ってまで現状を見直そうとしたA市の取り組みは好意的に捉えたいのだが・・・。

◆一律散布を見直し、実態に即した方針の策定を

 薬剤の散布を見直そうといったとき、自治体はどのような情報をもとに検討するのだろうか。農薬散布の問題に取り組んできた反農薬東京グループの辻万千子さんによると、薬剤を選定する際の情報源は「ほとんどが業者の営業によるものだろう」とのことだ。だとすれば、客観的なデータをもとにいくつかのサンプルの中から適正な薬剤を選択できるような情報源が必要だ。
 ただし、街路樹等へ一律に防除剤を散布する現在のやり方が必ずしも正しいとは言い切れない。例えば東京都世田谷区の教育委員会では、平成15年度より小・中学校、幼稚園の校庭樹木について、原則剪定と“こも巻き”による管理、必要に応じて必要最低限の薬剤散布で対応するとしたところ、実際に散布された樹木の本数は5〜6本に激減したという。「たいがいの害虫は剪定など物理的防除で対応可能」と辻さんは言う。
 東京都環境局が今年7月に策定されたばかりの「化学物質の子どもガイドライン(殺虫剤樹木散布編)」も参考になる。行政などの施設管理者は、樹木の種類や過去の事例などから、害虫防除の実施対象やその方法、薬剤の選定方法などについてあらかじめ方針を策定すること、その際には植栽・保健の専門家や業者などに意見を求めること、といった方向性が示されている。
 「定期的な農薬散布を行なうという前に、まずは地域にどんな種類の木がどれだけ存在し、どれだけの虫害が想定されるのかを推定した上で害虫防除の方針を検討することが必要」と辻さん。業者まかせ、農薬散布ありきといった発想を切り替える姿勢こそが求められるのではないだろうか。
 
 (文責:事務局 竹下)
 
 <参考URL>
 ● 世田谷区「安全、安心の樹木管理」
 http://www.city.setagaya.tokyo.jp/kyouiku/education/munouyaku.html
 ● 東京都「化学物質の子どもガイドライン」
 http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/chem/kids/
 ● 反農薬東京グループURL
 http://home.e06.itscom.net/chemiweb/ladybugs/index.htm