寄稿 「自治体は農薬散布を減らして下さい」

(反農薬東京グループ 辻 万千子)

●社会問題化するシックスクール

 環境自治体会議の年次報告書(2002年度版)でも紹介したように、02年6月、大阪府堺市の市立保育所に勤めていたアルバイト保育士4人に対し、シックハウス症候群で日本初の労災が認定された。その他、東京都西東京市、墨田区、調布市、長野県塩尻市、滋賀県水口町、高知県大月町等において、校舎・園舎の新築に伴うシックスクールが相次いで報道されるなど、教育現場における化学物質被害が社会問題化している。
 こうした動向を踏まえ、建築基準法が2003年7月に施行され、クロルピリホス(シロアリ駆除剤)と、ホルムアルデヒド(合板剤等に使用)がシックハウス症候群の原因物質として、初めて法規制の対象となった。

●シックスクール被害と自治体

 多くのシックスクール被害はいずれも予防策が万全であったとは言い難く、自治体の化学物質に関する意識の低さが浮き彫りとなった。
 東京都江東区では03年4月の新校舎移転後に発生した元加賀小学校シックスクール問題に対処するため、区、区教委、PTA、保健所、学識者等からなる対策連絡協議会を設置したが、公開された協議の過程からは、シックスクールを未然に防ぐための責任・権限所在のあいまいさが見て取れる。
 環境政策の基本的原則といわれる「未然防止原則」をとりあげるまでもなく、シックスクールの被害が発生すると、子どもや先生といった人々の健康を回復させることが困難になる。それだけではなく、施主側の化学物質への配慮やチェックが十分でなかったことを理由に、治療費負担、損害賠償、慰謝料支払など大きな経済的代償に結びつくという問題もある。
 報道によれば、都立世田谷泉高、江東区立元加賀小、墨田区立八広小の3校については、それぞれのミスともいえる対応のまずさから、約1200万〜2200万円もの経費を都や区が負担したという。工事契約はいずれも、文部科学省の「学校環境衛生の基準」(02年2月策定)が適用される02年4月以降であったが、各自治体は文科省基準に反して化学物質が基準値以上のまま校舎の引き渡しを受けてしまった。このため、施工業者には賠償請求しない予定という。
 同基準では、新たに、教室等の空気の検査事項として、シックハウス症候群の原因といわれる4物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン)の濃度を加え、検査回数、判定基準、事後措置等が規定された。また事後措置として、換気の励行、発生原因の究明、発生抑制措置等が挙げられている。
 さらに、新築・改築・改修時には濃度が基準値以下であることを業者に確認させた上で引渡しを受けることとされている。前述の事例(都区)では、これに反していたということだ。

●業者への損害賠償請求も可能だが

 一方、03年8月に新校舎が完成した西東京市立けやき小では、施工業者の測定では化学物質濃度は基準値以下だったが、市が独自に測定を行ったところ、基準値の2倍のトルエンが検出された。そこで、校舎の使用開始を延期して被害を防ぐとともに、その後、下請け業者がトルエン含有量が多い指定外建材を使ったことを突き止め、対策や使用延期のために生じた経費約1600万円を業者に負担させている。
 こうした措置が可能になる前提としては、発注段階から化学物質対策について特に注意を促しておくとともに、施工業者が選定したのではない専門機関による測定が実施される必要がある。また、問題が起きたときに、その原因を突き止める専門的な能力がある程度要求される。

●自治体が取り組み可能な対策

 東京都調布市では2003年12月より、市民がシックハウス対策を目的に自宅を改修する場合、最高20万円の補助制度が創設された。施工業者は市内事業者に限るなど、地元景気対策の一環としても位置付けられているのが特徴だ。
 NPO法人「シックハウスを考える会」の所在地である大阪府四條畷市では、今後すべての市発注工事において、国の規制を上回る独自の基準で選んだ安全な建材だけを使い、施工するとの画期的な指針が取り決められた。厚労省の定める13物質すべてに対し、温度35度、湿度50度といった高温多湿の環境下で化学物質の揮発データを測定し、使用に耐えうる資材のみを用いるとした。
 また、建築基準法施行に先駆け、静岡県浜松市では2003年2月、「公共施設におけるシックハウス症候群予防対策ガイドライン」を策定した。庁内での概要説明会には市の施設を管理する54課の職員が参加、化学物質の測定方法を学んだほか、学校でのワックスがけへの注意喚起など、教育現場におけるシックハウス予防策がレクチャーされたという。
 繰り返すが、調査・対策に多大なコストを要する事後対処と比較して、予防対策の実施は低コストでかつ確実性も保証される。今後こうした取り組みが全国へ波及することを期待したい。

●シックスクール対策の実務例(墨田区)

 墨田区では、前述のように八広小学校でシックスクール問題が発生した。八広小学校は3つの小学校の統合により誕生したが、その際、既存校舎の改修工事(02年7月〜9月)、増築工事(02年7月〜03年3月)が実施された。
 改修工事の対象箇所の化学物質濃度を測定したところ、トルエンの濃度が基準値を超えるところがいくつかあった。03年3月まで待っても基準値以下にならなかった理科室は閉鎖され、当面の使用禁止という措置もとられた。
 こうした経過も踏まえ、03年5月には区役所全庁横断的な「室内空気環境対策検討委員会」が設置され、同年6月に「室内空気環境対策の全庁的な取組み方針」が発表された。また、この方針を受け、教育委員会でも「墨田区立学校におけるシックスクール問題に関する取組方針」が同年9月に発表されている。
 これらの方針によれば、八広小学校の問題の原因は、内装工事で使用された塗料・接着剤がトルエン含有だったこと、また、外壁の下地処理剤に含まれていたトルエンも室内へ浸透するという現象もあったということだ。
 工事の発注・引渡しといった一連の手続面からみると、既存校舎の改修については、供用開始後に空気測定を行うなど、化学物質対策に関する認識の欠如があったと総括している。また、増築校舎については、工事完了後に実施した室内空気環境測定の測定結果が指針値を上回っていたにもかかわらず、施工業者からの引渡しを受けたという判断の過ちがあったとしている。
 これらのミスを受け、「測定値が指針値を超過している場合には、完了検査はしない」とする契約条項を整えるべきであったと自省している(従来から仕様書上は「監督員との協議による」となっており、それは変更されていなかった)。
 この経験を踏まえた、今後のシックスクール対策としては、以下のようなフローが想定されている。
 
 繰り返すが、工事のような大規模修繕だけでなく、日常的な修繕・補修、備品の購入時にも工事時と同様の対策が望まれる。私事だが、筆者の自宅で購入した書棚も塗装のラッカー臭がひどく、2か月後に返品したという出来事もあった。
 化学物質は健康に直接影響する問題だけに、「疑わしきは使用せず」の未然防止原則が強く求められる。そのためにも、事業者、専門機関からの情報提供がよりいっそう必要である。
 
 <参考文献>
 2003.12.18読売新聞。2004.4.12毎日新聞。
 墨田区「室内空気環境対策の全庁的な取組み方針について」など。