「交通」を自治体の政策課題に!─屋久島会議への展望─

1. 地域交通と環境

 全国の一世帯あたりの平均で、暖房・冷房・給湯・動力など、分野別にどのくらいエネルギーを使用しているかをみると、分野としては交通に使用する燃料に起因するエネルギー消費が最も多く、全国平均で26%を占める*1。
 さらに、公共交通のサービスが乏しく、また人工密度が低くて生活をクルマに頼らざるをえない地域になるほど、この比率が高まり、農山村部が多くを占める市町村では、クルマの使用によるエネルギーの比率が40%を超える*2。(図1に新潟県安塚町の例(家庭部門)を示す。)
 環境自治体会議では、1999年以来、9項目の「共通目標」を定めて取り組んでおり、環境といっても多様な対象があるが、気候変動という点からは、交通が量的に最もインパクトが大きい項目である。
 会員自治体の中でも、秋田県二ツ井町・茨城県古河市のように、自転車の利用促進で知られている自治体もあるが、一般に交通環境対策というと、TDM(交通需要管理)が連想され、大都市の問題と考えられているのではないだろうか。
 たしかに環境自治体会議の会員の大多数を占める市町村では、渋滞や大気汚染もほとんどみられず、局所的にみられたとしても、首都圏等と比較すると軽微である。また生活を自動車に頼らざるをえない状況から、交通問題といえば「交通弱者」の移動問題のほうが深刻なため、交通環境対策は必ずしも優先課題に挙げられないという事情もあると推察される。

2. 温室効果ガス排出の現状

 しかし交通環境対策は、大都市の問題だけではない。国内の各分野の中で温室効果ガスの排出量が最も増えているのが交通部門である。交通部門からのCO2排出量が、1990年から2000年度の間に、4,380万t(20.6%)増加した*3。そのうち3,960万tが旅客(人の移動)にかかわる増加であり、乗用車の寄与分が大きい。(図2 温室効果ガス(CO2換算)の分野別寄与)
 
  これまでにも、アイドリングストップや、クルマの代わりに徒歩や自転車の奨励、公共交通を使う呼びかけが行われてきた。また低公害(燃費)車の導入なども次第に広がっている。しかし図2に示すように、結果としてCO2の増加を止められていない。
 クルマのエネルギー効率を画期的に向上させると期待されている燃料電池も、ようやく公道ナンバーが取れた段階に過ぎず、国の公用車として導入された燃料電池車のリース代金が月に80〜120万円という現状では、市町村はもとより都道府県でも導入は不可能であろう。このような予算があるくらいなら、公共交通の路線維持に支出したほうが効果的である。
 今後、量産化されるとしても、国の目標では2010年に5万台が普及するという予測である。国内の乗用車保有台数が約4,300万台の中での5万台に過ぎず、少なくとも京都議定書に規定された2010年までの期間に対しては、温暖化対策として無効であるし、大気汚染の対策としてもほとんど効果はない。

3. 持続可能な交通の戦略

 いきなり個別的対策に向かうのではなく、交通体系そのものに注目して、戦略的な政策の立案が必要である。このような政策の指針として、OECD の「EST(環境的に持続可能な交通・Environmentally Sustainable Transport Project)」を紹介したい*4。
 ESTの基本的な認識として、経済的・社会的な発展のため、世界的に交通量は今後も増加を続けるが、環境面への負荷(気候変動、大気汚染、その他人々に与える負の影響)もこれに伴って増加することを前提としている。
 このため先進国では、自動車の排ガス規制や燃費規制を強化してゆくが、環境負荷の少ない自動車が開発されても、在来車が市場で置き換わるのに時間がかかるので、効果が出現するには時間遅れがある。
 一方で、途上国での交通量の増大は先進国を大きく上回り、それに伴う環境面への負荷も急増する。これらの総合的な結果として、地球全体での環境負荷物質の発生総量としてみると、一部の物質(VOC・揮発性有機化合物)で横這いを維持する他は、温室効果ガスを含めて、すべての環境負荷物質について増大の方向を止められない。
 ここでESTでは、「持続的な交通」を「(a)再生可能なレベル以下でしか、再生可能な資源を使用せず、(b)再生可能な代替物の開発のレベル以下でしか、再生不可能な資源を使用しないことにより、人々の健康と生態系を危険にさらさずに、アクセスに関するニーズを満たすような交通」と定義している。
 これは、1992年6月の「リオ・サミット」で採択された「アジェンダ21」の思想と全く一致するものであり、「アジェンダ21」各項目は、交通にも直接かかわりを持つ。中でも、対策が実効をあげるためには地域的な取り組みが不可欠であるという点が重要であろう。
 ESTでは、次のようなシナリオを提言している。第1に、環境的に持続可能な、環境指標(温室効果ガスや大気汚染物質の濃度など)を、科学的な検討から決める。第2に、将来のある時点で、それらの指標を達成するのに必要な、交通体系や技術的手段のビジョンを計画する。第3に、現状の延長線上(BAU)で経過したとして、ある時点でESTシナリオとどれくらいのギャップが生ずるかを数量的に把握する。第4に、そのギャップを埋めるために、現時点からの政策の方向性を決める、というシナリオである。
 これらの検討から、6分野にわたって、2030年までに達成すべき具体的な指標が次のように提示されている。
 【CO2】 1990年に対して20〜50%以内(すなわち80〜50パーセント削減)とする。
 【NOx】 1990年に対して10%以内とする。
 【VOC(揮発性有機化合物)】 1990年に対して10%以内とする。
 【浮遊粒子状物質(SPM)】 直径10ミクロン以下のものについて、地域の状況に応じ、1990年に対して55〜99%を削減する。
 【騒音】屋外での騒音レベルが昼間で55dB、夜間で45dB以下とする。
 【土地利用】 交通のための土地利用やインフラ整備について、交通施設が集積している地域において緑化空間を回復・拡充する。
 このようなEST基準を満たすように各国が政策を実施するとしてシミュレーションを行うと、環境的に持続可能性の低い(環境に優しくない)交通手段から、環境的に持続可能性が高い(環境に優しい)交通手段へのモーダルシフトが行われることにより、持続可能な交通の基準を満たしつつ、1990年よりも高いモビリティを2030年に確保できるという結果が得られた。
 ここで注目すべきポイントとして、ESTは技術改良(低公害車、電子情報システムなど)に依存するだけでは達成されないという点である。ケース・スタディによると、技術改良によって量的に達成される比率は、環境負荷の各分野にわたって40%程度にとどまり、残る60%がTDMやモーダル・シフトにより達成される。
 さらに過疎の促進、交通弱者のモビリティの妨げなど、現状の延長線上であるクルマ中心の交通体系によって起こる多くの社会的影響についても、ESTは問題を改善する方向を与える。また「シナジー効果」として、環境負荷の少ない交通体系をめざす施策が、同時に交通事故を減らす対策としても作用することが期待されている。交通事故防止は常に自治体の重要な課題となっており、限られた人員・予算を活用してシナジー効果を狙うことも有効であろう。

4. 地域交通政策の現状

 ここで、地域交通政策を担う自治体の状況について考えてみたい。東京カーフリーデー実行委員会では全国3,300の自治体(県市区町村)にアンケートを送付し、各種の取り組み状況や、交通政策の立案状況を調査した*5。それによると、他の環境分野に比べて、地域交通政策はまだ展開が不充分であることが推定される。
 「TDM(交通需要管理)を実施(予定)しているか」との設問に対しては、図3に示すように実施率が低いが、実施(予定)されている自治体も大都市に限られ、人口3万人以下の小自治体では、TDMの実施(予定)率がほとんど0であった。前述のように、今やTDMは大都市の問題にとどまらず、むしろ交通に起因する温室効果ガス排出が多い小規模自治体の課題ともなっている。
 また、交通政策の企画・立案に際して住民との意見交換が重要であるが、「交通上の問題(渋滞、大気汚染、騒音、駐車場、道路建設など)について、行政と住民が意見交換を行うきまりや仕組みを作っているか」との設問に対しては、図4に示すように、人口規模の大小にかかわらず、ほとんど仕組みが設けられていない。人口30〜100万人の中規模都市で、仕組みがあると回答している自治体があるが、協議内容として、環境よりも交通安全などが多く、住民の側でもまだ交通環境対策に対する意識が盛り上がっていない面も感じられる。

5. 屋久島会議への展開

 交通は多岐にわたる問題であり、今回の分科会でだけそれを網羅することはもちろん無理であるが、まず、屋久島という地域性を背景にこれまで取り組まれてきた、電気自動車や、廃食油燃料化(BDF)を切り口とするが、これらを単に個々の技術対策として見るだけではなく、図5に示すように、交通政策を考える枠組みとして捉えてみたい。