<東京都水道局の環境報告書の取組み>

●自治体と環境報告書

 環境報告書に関する国際的に統一された定義はない。ちなみに日本の環境省は「環境報告書とは、企業等の事業者が、経営責任者の緒言、環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況(環境マネジメントシステム、法規制遵守、環境保全技術開発等)、環境負荷の低減に向けた取組の状況(CO2排出量の削減、廃棄物の排出抑制等)について取りまとめ、一般に公表するもの」としている(http://www.env.go.jp/policy/economy/env-report.html)。

 自治体の環境報告は多様な媒体が出されている。もっとも包括的な媒体は「環境白書」であろう。しかし環境白書に、上記の環境省の定義はあてはまるだろうか。環境白書と環境報告書は同じ機能の媒体であろうか。自治体が発行すべき環境報告はどのようなものが望まれるのか。

 この点については環境自治体会議の内部、環境マネジメントシステム委員会等でもまだきっちりとした結論を出していない。しかし、会員自治体では川崎市や鎌倉市など、環境白書とは別に環境基本計画の年次報告書を出すなどすでに試行錯誤している。その内容は環境基本計画下の環境対策ごとの進展状況が紹介されており、白書とは明らかに異なる内容が入っている。

 この話題に関連する動向では、最近、注目したい動向もある。ISO14001取得と環境報告書の発行の関連である。周知のとおり、日本は自治体のISO14001取得件数は世界一であり、ISO14001ではコミュニケーションについても要求事項がある。この要求事項を自治体としてはどのように考えていけばよいのか。環境白書がカバーする範囲とISO14001適用範囲は異なる自治体も多く、要求事項は環境白書に求められている内容とも異なりそうだ。

 本稿では、東京都水道局が初めて公表した同局としての環境報告書について紹介し、このような自治体の環境報告に関する議論の素材を提供することとする。

●水道局単独の環境報告書発行の経緯

 東京都水道局では従来の施策をより進展するためにISO14001取得や環境会計に取組んでおり、環境会計は平成12年度予算版ベースを公表している。ISO14001取得は1999年10月にキックオフ宣言し、水道水源林と東村山浄水場のISO14001取得を進めている。そのような中、水道局単独の環境報告書はどのような経緯で発行に至ったのだろうか。

「以前から環境報告書の作成については検討を行い、素案の作成をしたこともあった。しかし水道局全体ではまだ環境マネジメントシステムが構築されていないので、すでに行っている事業を環境の観点でまとめようと結論を出し、事務局の3人で案を出して各部に投げた」(斎藤順・水道局経営計画部企画調整課企画係)。

 編集方針は「できるだけ具体的な数字を載せる、環境対策と思われるものを洗い出してデータをたくさん使って都民にわかりやすくまとめる、対策などの根拠とする法令や指針は明記する――の3点をポイントとして進めた」(宮本郁子・同課企画係)。また、数字の説明などの文章は「すでにプレスに発表していたりパンフレットにしている文章をベースに、わかりやすく記述し、担当者に誤解がないかチェックしてもらった」(宮本さん)とのことである。

 この過程で、特に頭を痛めたのは「どこまでデータを公表するか」という点という。「広報等でもデータは公表しているが、どちらかといえばプラス面がメイン。マイナス情報も含めた積極的な情報公開は局内部でもまだ慣れていないのでは」(宮本さん)。また、局内で環境と認識されていない対策(例えば水質管理、漏水防止)を環境施策という観点でまとめることについて、担当者の理解を求めるのも苦労したという。

 環境白書と環境報告書をどう区別して考えているか、それぞれの感触を語ってもらった。「水道局では、大気や水質の現況の報告はできないので環境白書はそぐわない」(宮本さん)、「白書より踏み込んだ内容、アカウンタビリティを果たすことが求められている」(斎藤さん)、「環境報告書は環境マネジメントシステムの運用結果の報告」(石井勝男・同課環境施策推進担当係長)。

 環境会計は環境事業の費用対効果を説明するツールになりうるだろうか。「今回の環境会計は記載すべき内容や表現の仕方についてまだ改善すべき点が多いことは承知している。環境報告書も環境会計も経営判断に役立つものとして作りたいので、今後とも取組みを進めていきたい」(石井さん)。

●配布先および雑感

 平成12年度版の環境報告書は昨年11月、公表された(主な目次を表1に示す)。部数は1500部。900部は水道モニター(約200名)を含む一般配布用、残りは局内で資料として使用するほか、関係省庁、都庁の関係者、各市町村の環境担当部署および水道担当部署などに配布されている。「広報媒体の水道ニュースや水道局のホームページで紹介したが、いままで都民から15人ほど欲しいという電話やメールがあった」。なお、全文、ホームページに掲載されているが、ダウンロードはできない(http://www.waterworks.metro.tokyo.jp)。

 筆者がざっと眺めた印象では、水道事業の概要と環境側面は地図等を使いわかりやすく見せようとの努力が伺える、特に浄水・配水過程の物質フローや水道水源林管理の情報は水道を使う消費者に自らの生活と環境負荷をつなげる良い素材になりそう――など開示への努力が理解できる面と、構成が全体として体系づけられていない、文章が事実説明に終わっているところが多い、環境マネジメントの記載が少ない、環境会計の記載は環境マネジメントと連携しておらず説明も不足――など、物足りない部分がある。特に環境マネジメントについての全貌が、わかりにくいのが気になる。

●今後の課題

 ヒアリングの際、率直にその意見を伝えたところ、「平成12年度版を完成版とは考えていない。まだまだ環境報告書として改善しないといけない点は多い」と、口をそろえた返事が返ってきた。「水道局として体系だった環境マネジメントシステムはまだ構築されていない。この4月から環境項目ごとの目標を立てて取り組むようになるので、体系的な説明ができるようになるだろう」(石井さん)。「報告書に記載する数字に対して踏み込んだ説明も必要だが、どう説明したらよいのかわからない部分も多い。例えば水道水をつくるための電力使用量の変化は、供給量の変化だけでは説明できない。良い指標を考えたい」(宮本さん)、「読んでもらった人びとからの意見をぜひ反映させながら、めざすべき姿を模索したい」(斎藤さん)、

 この4月から経営計画部は廃止され、環境担当は総務部に移管となるという。環境マネジメントシステムや環境会計と一体となった取組みがなされ、平成13年版の環境報告書はより改善されることだろう。

(2001年1月24日訪問、文責&構成:角田季美枝/環境自治体会議事務局)

*問合先
東京都水道局経営計画部企画調整課
TEL03-5320-6336(ダイヤルイン)
FAX03-5388-1678

[追記]会員の皆様には東京都水道局より提供いただきました平成12年度版環境報告書をニュースとともに同封いたします。そちらもご参考にしてください。