市民からの環境・公害政策提言について
〜東京公害防止条例改正市民案を例に〜

●都条例改正の背景とつくる会の誕生

 今年3月31日、東京都環境審議会は公害防止条例改正の答申を石原都知事に提出した。昨年3月に青島都知事(当時)が同審議会に行った諮問を受けたもので、現行の公害防止条例を地球温暖化などの新たな環境問題に対応するよう改正することが目的である。

 東京都公害防止条例改正市民案をつくる会(代表=牛島聡美弁護士、以下つくる会)は、24の環境NPO(4月末現在)が参加・賛同するネットワーク組織で、昨年10月の同審議会「中間のまとめ」以前から「最終答申」に至るまで、具体的な対案提示型の政策提言活動を行っている。中心活動団体は8〜10団体、メンバーは弁護士や環境の専門家、文学者、アーティスト、警備員、編集者など多種多様で、月一回勉強会を開催している。

 都最終答申は、ディーゼル車規制などの自動車公害対策や、PRTR法の上乗せ規定、代替フロン対策など、中間のまとめに比べ大きく前進したが、都は、その過程でつくる会をはじめとする市民サイドの意見や要望を積極的に採り入れたことを同時に公表した。

 ここでは、つくる会の環境政策提言の過程と今後の展開について報告したい。

 はじめに、都公害防止条例とその改正理由について簡単に紹介すると、同条例は、大気汚染や水質汚濁などで最悪だった都内の環境を改善するため、「公害と福祉」を旗印に掲げた美濃部都知事のかけ声で、工場公害防止条例、騒音防止条例、ばい煙防止条例を統合し1969年に制定。以後現在まで、都の環境関連条例の中で最大の規模と実効性を有する。

 しかし、工場公害に対し大きな効果を発揮した同条例も、自動車公害や80年代〜90年代に登場した地球温暖化やオゾン層破壌、廃棄物、化学物質などの新たな環境問題には無力で、市民参加や情報公開などの理念や規定も不十分なため、大改正されることになった。

 これに対し、フロン回収を進める環境NPOを中心に4月にフロン対策東京連絡会が結成され、フロン税創設などを柱とした要綱を6月に都に提出した。この時点で、環境・公害問題全般を対象に活動を続けている女性弁護士の牛島聡美氏が代表に就任。その後、メンバーから条例改正全体を対象にしようという声が上がり、COP3等で協働した市民団体や個人に呼びかけ、8月につくる会準備会として新スタートし、都との協議を重ねた。

●中間まとめへの提言から市民案要綱完成まで

 こうしたなか、都は10月12日に環境審議会報告「東京都公害防止条例の改正について(中間のまとめ)」を公表した。中間まとめは、新条例の基本的な考え方を示してはいたが、具体的な規定や内容に目新しい点はなく、注目すべき意見は全て「その他の意見」としてカッコ書きで参考掲載されるにとどまっていた。

 そこで私たちは、中間まとめの公表に合わせて市民案素案および声明を提出・公表し、ほぼ同時につくる会として正式に発足、シンポジウムを行った。素案は、既存の公害規制項目の強化・拡充を求めつつ、温暖化など新たな環境問題に関する具体的な提言を多く盛り込んだ。また「前文」の明確な位置づけや「その他の意見」の積極的な採用、課徴金などの経済的誘導策、政策の事後審査システムの導入、市民参加の明示などを提案した。

 素案は、中間まとめが曖昧とした内容であったこともあり、他の市民団体や学界・行政などから大きな反響を得た。しかし、その時すでに私たちは、都審議会最終まとめに目標を移して次の活動を始めていた。最終まとめが年度内に公表される見込みだったため、年内には骨子が定まるという前提に立ち、素案を基礎に質・量ともにさらに充実させた「都条例市民案要綱」の作成にとりかかっていたのである。

 中間まとめへの意見提出期限が11月末だったので、メンバーは環境保全局と協議する一方で、都議会の各政党・会派をまわるなどの活動を展開。また、都主催の「審議会委員による意見を聴く会」で温暖化、化学物質管理、循環型社会構築などについて意見を述べた。

 そして11月30日、全10部立てに条文化した「市民案要綱」を都に提出、12月に改訂版を提出した。7万字に及ぶ全容をここで紹介するのは不可能だが、例えば2月に都が規制強化を公表したディーゼル排ガス対策をはじめ、市民参加の徹底、デポジット、拡大製造者責任…など、さまざまな規制・手法を提言している。

 要綱づくりの基本的なスタンスを私なりにまとめると、次のようなものになる。

 要綱を提出してから都の最終答申が出るまでの間も、都環境基本条例に基づく環境基本計画の点検について牛島代表が意見を述べたほか、2月に都がディーゼル規制強化を公表した直後にその実効性や政策手法に関する要望を出した。また、国が進める循環型社会のための基本法に対して試案を策定・公表した。一方、政策提言以外にも、改正のポイントや座談会、制定当時の状況を聞いたインタビューなどをまとめたブックレット「市民がつくる東京の環境・公害条例」を2月に発行、3月にはシンポジウム「みんなでつくろう!環境首都・東京」を開催した。

●実践的な活動ベースにさらなるネットワークへ

 3月末に最終答申が公表されると、つくる会は即座に声明を発表、市民の意見を積極的に採り入れた都の姿勢を評価しつつ、EPRや循環の概念の導入、自動車、フロン対策などの強化を要望し、名称についても「東京都環境保全・公害防止条例」とするよう強く求めた。

 このように、つくる会の取り組みはきわめて実践的かつ専門的で、理念先行型ではない。これは非常に重要な点で、私たちの活動が停滞しないのは、活動や研究の成果を条例という具体的な形に落とし込む基本姿勢を、さまざまな分野の専門家であるメンバーが意識していること、そして、都や国の動向を常にウォッチし、提言のタイミングを逃さない点にあると思う。

 また、活動が円滑に進む大きな要因にインターネット、特に電子メールの活用がある。メンバーのほぼ全員がパソコンを使い、電子メールによる密な連絡が可能だったため、提言・要綱の策定作業や情報収集・発信に威力を発揮した。

 当会は本来条例改正までの時限組織だが、制定後も広く環境政策全般を対象とするゆるやかなネットワークに発展させていく方針だ。当面は9月の都議会での本格審議をにらんで、最終答申への意見を5月中旬にまとめて都に提出し、7月頃に最終要綱を完成する予定で現在作業を進めている。加えて、PRTRについては個別条例の制定を都に求める考えで、そのためのWGも立ち上げた。今後、都や国などへの環境・公害政策提言を続けていくほか、これまでの活動で得た経験や手法を各地に伝え、市民による環境・公害政策提言の動きを全国に広めていきたい。

(後藤 隆/環境NPO研究会代表、東京都公害防止条例改正市民案をつくる会理事)

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