EUの自治体環境政策評価、日本との違い
〜「ヨーロッパの環境首都」がハンブルクとストックホルムに。その理由と審査内容は〜

国府田 諭(環境自治体会議環境政策研究所)

ヨーロッパ環境首都大賞 ── イベントではなくEU 政策の一環
 2 月23 日、EU が主催するヨーロッパ環境首都大賞(The European Green Capital Award) の選考結果が発表された。総合評価1 位がドイツのハンブルク、2 位がスウェーデンのストックホルムとなり、ハンブルクが2011 年の環境首都、ストックホルムが2010年の環境首都に決まった。
 この賞は一過性のイベントではない。元々の契機は2006 年、EU 内の15 都市らが共同してヨーロッパの環境首都を選ぶ賞の設立を提案したことである。背景には、2006 年1 月にEU の都市環境政策を方向づける新たな文書が発表され、都市自治体の役割と主体性がいっそう期待される状況になったことがある1)。その中で環境首都大賞設立が提案され、支持が広がり、EU 主催での実施が決まった。 賞の目的、審査方針などが整理され2008 年5 月に最初の募集が始まった。賞は今後も継続し、2012 年以降の各年の環境首都を選ぶことになっている。
 今回の選考には、ストックホルム以外にも多くの国の首都が応募した。またドイツのフライブルクなど、自治体環境政策の先進例として日本でよく紹介される都市も応募した。各都市の応募書類は大半が100 ページを超える詳細なものである。審査は、専門家らで構成される委員会によって数段階にわたり行なわれた。評価方式や各都市の結果も公表されている。
 このように背景、規模、内容からみて、ヨーロッパの環境首都を選ぶという看板に偽りのない、充実した「自治体環境政策コンテスト」となっている。募集の案内、各都市の応募書類、そして最終選考に至る一連の文書を読むと2)、いま、ヨーロッパの都市環境政策で何が重視されているのか、自治体にどのような役割が期待されているのかが浮かび上がる。


 環境首都の決め手は何か ── 3 つの評価軸と10 の対象分野
 ハンブルクとストックホルムがそれぞれ1、2 位となったことは冒頭に述べた。ここで応募都市の全体について概観したい。応募資格は、1)ヨーロッパにある人口20 万人以上の都市、および2)国内に人口20万人以上の都市が一つもない場合、その国で最大の人口をもつ市、である。文字通り「首都」級の都市を主対象としていることが分かる。
 応募した都市は35、うち11 が国の首都である。審査を経て8 市が最終選考に進んだ(表1)。フライブルクやアムステルダムなど、日本でよく紹介される都市も最終選考に進んでいる。
 評価の視点として、3 つの評価軸と10 の対象分野が明示されている(表2)。

表1 : 最終選考候補8都市の結果 (公式サイト資料より筆者作成)

 順位 都市   人口(人) 総合点 
 ハンブルク(ドイツ)  1,760,322  161.4
 ストックホルム(スウェーデン)  795,163  157.3
 ミュンスター(ドイツ)  280,200  155.4
 アムステルダム(オランダ)  747,290  150.3
 フライブルク(ドイツ)  219,430  147.7
 オスロ(ノルウェー)  550,000  143.0
 ブリストル(イギリス)  410,500  136.2
 コペンハーゲン(デンマーク)  503,699  131.6



表2 : 3つの評価軸と10の対象分野 (公式サイト資料より筆者作成)

 評価軸  @実績値による現状/A実効的・先進的な政策および将来への継続/B他都市との交流・連携
 10の対象分野  @気候変動/A交通/B公共のオープンエリア/C大気環境/D騒音公害/E廃棄物排出量と管理/F水消費量/G廃水処理/H自治体の環境マネジメントシステム/I持続可能な土地利用


前者からは、現在の環境状況とあわせて自治体政策の内容や体制がチェックされていることが分かる。また環境首都にふさわしく他都市へのモデル的役割を果たし、政策の波及や連携ができるかどうかも重視されている。
 10 の対象分野では、気候変動が第一に挙げられる一方、日本でいう典型七公害にあたる分野も多い。これは全体を通じて「都市生活の質の向上」が強く意識されていることの現れである。賞のキャッチフレーズはFit for Life であり、交通や公共エリアも、環境負荷だけでなく市民生活の質の向上に不可欠という視点を含めて重視されている。評価委員会の最終報告は述べる。「ヨーロッパ 市民は健康な都市に住む権利があり、それゆえ都市は市民生活の質を改善し地球環境への負荷を低減するよう努めるべきである」。

フライブルクはなぜ敗れたか ──「著しい情報不足のため減点」
 募集時から10 の評価分野が明示され、応募都市は各分野について詳細な現状と政策を文書で提出している(小項目ごとに都市が記すべき内容と字数制限がある)。これに対し評価委員会では、あらかじめ決めた方式で分野別・項目別に点数を付け全体を合算している。最終選考では複数の評価担当者による署名つきの所見が作成されており、自治体のマイナス面も平易な言葉で率直に指摘されている。
 1 位のハンブルクは2020 年までにCO2 排出量を40% 削減するなど意欲的な目標をもち、そのための計画やモニタリング体制も高く評価された。人口が約180 万人と最終選考の中で最大の都市ながら、大気環境の状況や対策がVery Good であり、ほぼ全ての市民が自宅から300 メートル以内で公共交通にアクセスできることも1 位の要因になった。
 ストックホルムは、2050 年までに化石燃料に頼らなくする(Fossil Free)という目標と、その実現に向けたマネジメントシステムが高く評価された。また自動車乗り入れ課金を実施した先進例であり実際に車利用が減ったこと、緑・水環境の質が高く市民がアクセスしやすいことも高評価の要因となった。
 逆に厳しい評価がされた例として、フライブルクの騒音や大気環境の分野がある。「騒音の改善状況が不明、予算について情報がない」「ウェブによる大気汚染測定値表示がない。PM10(粒子状物質)とNO2(二酸化窒素)の2007 年のデータがない。応募書類にある対策は具体的でない。対策について著しい情報不足のため、減点する」 。
 この分野の減点だけが原因ではないが、結果的にフライブルクは総合点数5 位となり大賞を逃した。環境状況や政策以前に、自治体の的確な情報提供の姿勢が当然の前提と見られていることが窺える。
 一方、最終選考に残った都市のうちイギリスのブリストルでは、地元紙が「わが市が敗れたことに驚く環境活動家はまずいないだろう」と冷静かつ辛辣に報じた3)。市の環境対策の不十分さを指摘し、ストックホルムに学ぶべき政策メニューを列挙している。


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 環境自治体会議の会員自治体の中で人口20 万人以上の都市は6 つである。規模だけみれば、EU 環境首都大賞が対象とする都市像とは遠い会員自治体も多いと思われるが、市民生活の質の向上という視点はどの自治体にも共通であろう。EU 環境首都大賞は、この視点で環境の各分野をつなぎ、あらかじめ評価方法を明らかにし、専門家を含めて明快で率直な政策評価が行なわれたと言ってよい。日本における自治体政策評価の際にも参考にすべき点が多いと思われる。





1)2006 年1 月11 日、欧州委員会環境総局『都市環境における課題別戦略』(The Thematic Strategy on the Urban Environment)。日本語の解説として、岡部明子、福原由美「EU のサステイナブルシティ政策2000 年以降の展開」、『季刊まちづくり』第15 号。
2) 公式サイトhttp: //ec. europa. eu /environment /europeangreencapital / にある各文書を参照したが、紙数の都合で個々の参照箇所については省略した。不明な点があれば筆者まで問い合わせ願いたい。
3)2009 年3 月1 日、Western Daily Press 電子版。